猫の話

中学2年生の時の話。
学校から帰ると、家の前に野良猫が一匹いた。
うっすら縞模様のどこにでもいる猫。
すぐ逃げると思ったが、私の足元にすり寄ってきた。
猫は、私が歩くとついてきた。走ると一緒になって走り、座るとゴロンと伸びてお腹を見せた。

翌日も、猫はあらわれ、私すっかりうれしくなった。
私は猫のリズムが好きだった。そばにいると感じる猫のリズム。
私はその猫を、ロビンと名付けた。
ロビンは油断すると、すぐ家の中に入ろうとした。
つかまえて外に出す→スキを見て入る→つかまえて外に出す
太陽とホコリのニオイが混じったロビン。
(そうだ、きれいに洗ってあげよう)
風呂場へ連れていき、シャワーをかけたら、激しい拒絶で、狂ったようになり、断念した。その時、大便を漏らしたのでわかった。お腹には寄生虫が住んでいた。

ロビンは山にいる小さなモグラとかネズミとかを捕らえて生きている。一度、狩りをしている姿を目撃したが、見事な腕前で、私は釘付けになった。ロビンの口には、息絶えた小動物が咥えられていた。
普段ののんびりしたロビンが、意外な野生の姿を見せた。

ロビンは、網戸に爪を立てて張り付きながら私を呼ぶようになった。
何度も何度もやるものだから、網の目が重みで大きくなり、網戸がダメになる。母は「すごい執念だね」とあきれて笑った。
父は「あんた、どうにかしなさい」と私に引導を渡した。

私はパンやらチーズなんかを持って裏山に登った。
ロビンはもちろんついてくる。山を越え、隣町の手前まで来たら、餌を置き、ロビンが食べている隙に、自分だけ走って家に戻った。
・・・ちゃんと生きていけるかな?罪悪感がチクリと胸を刺す。
けれど、次の日、ロビンがいつもの甘え声とともに現れたので、苦笑した。
「裏山じゃなくて、もっと別のところへ・・・」父は言ったが、もう実行しなかった。しらばっくれて聞こえぬふりをした。

シャムとペルシャのあいのこ
ロビンが現れてから、1年ほどたった頃、姉が子猫をもらい、家で飼うことになった。全身が真っ白でほっそりとした猫だった。こんなきれいな猫が家にいることが嬉しかった。姉がモモと名付けた白猫は、目が透き通ったブルーで、耳が淡いピンクだった。

私はソファで横になっているモモを枕にしてうたた寝した。
モモは時々、私のセーターに爪を立てて、酔ったように両手で交互に押すような素振りをすることがあった。グルグル・・と妙な声を立てながら、目をトローンとさせて。(お母さんのおっぱいを思い出しているのかな?)

モモが外へ出たがるので、玄関を開けると、ロビンがいて、二匹でどこかへ遠出することがあった。おっとりのロビンと、ちょっと気性の荒いモモとは相性がいいのかな?なんて姉と話して笑った。けれど、二匹が家に戻るとき、現実はやっかいだ。遊び疲れて、泥んこになったモモを家に入れるが、ロビンとは玄関でさよならだ。

もしかして、起こるかも・・・と思っていたら、本当に起きた。ロビンが突然姿を消したのだ。どこかへ行ってしまったか?それとも死んでしまったのか?半年くらい、ロビンは行方不明だった。その後ひょっこり帰ってきたけれど・・・。今度はモモが腎臓の病気であっけなくこの世を去った。

お隣のロビン
私は成長して社会人一年生となり、家にいる時間が激減した。ロビンもほんの時々しか姿を見せなくなっていた。
ある晩、めずらしくロビンの鳴き声が聞こえるので、冷ご飯をやわく煮て、かつおぶしをたっぷりかけた“ねこまんま?”を作った。それを器に入れて外に出た。・・・が、私の足は止まった。ロビンがお隣の裏玄関で、何やらもらって食べているのだ。お隣の娘さんは、ロビンを違う名前で呼んでいた。うちの飼い猫ってわけじゃないから当たり前。ただ、何とも言えない光景だった。

ロビンの死
ロビンのことは実のところ忘れかけていた。
新しいパトロン?はいるようだし、もしかしたら、あちらこちらにおいでかもしれない・・。私も20歳。野良猫ちゃんと遊んでいる場合ではない。

ただ、ある冬の夜、部屋にいた私は・・・用もないのに、外へ出た。
雪が積もっている夜なのに(ちょっと不思議なんだけど、用もないのに、私はなぜか家の外へ出た。)
そして、家の前の階段を降りた道路の真ん中で、ロビンが横たわって、死んでいるのを発見した。

家にいた妹のお客たちに、「誰か猫ひいた?」と詰め寄り、「いえ、ちがう・・」とひるむ相手に、「でも!道路で猫死んでるよ!!」と結構な勢いで言っていた。実のところ、車に轢かれた外傷などなく、ただ倒れていたのだ。どんなに冷え込む夜も、次の日にはちゃんと生きていてくれていたロビンだった。何年もそうだった。

猫は自分で死に場所を探し、ひっそりと息を引き取ると聞いたことがある。でも、寒さとかが重なって、道路の真ん中で行き倒れてしまったのか。

小さめのダンボールにロビンの遺体を入れて、その夜は物置に保管した。

次の日、私はスコップとダンボールを抱え、裏山に登った。雪に覆われた地面は、硬くて、スコップが全然たたない。仕方なく山を下りて、家裏の雪の少ない部分を掘ってみた。そこは地面が少し柔く、なんとかロビンが収まるくらいの穴ができた。箱からロビンを取り出すと、昨晩やわらかかったロビンの体は固く、なんと箱の形になっていた。ロビンの顔と四角い体。フッと笑ってしまう私・・・。深く掘れず、たくさんの土はかけられないが、ロビンの体がなんとか隠れるくらいにはなった。それで、よしとした。

さよなら、ロビン、本当にさようなら。これはもう30年も昔のお話。
時々、ロビンそっくりな猫を見かけることがある。
目が合う前にサッと逃げる。こちらに近寄ってくる猫はいない。
いつか、猫を飼いたいな。それは真っ白い猫かな?それとも・・ノラかな?

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